もしぼっちが100人のリア充の中に入ったら ~最終話「導かれるままに、僕は舞台に上がっていた」後編~
13日。いよいよ本当の本番の朝を迎えた。
シェアハウスに一緒に泊まっていたキャストと4人で、タクシーに乗って会場へ。
朝早くに、町中から離れたやや不便な家までタクシーを手配してくれた。本当にありがたい。
前の日にあれほど感じていた不安感はもうなくなっていた。
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最初はメイク。ドーランは昨日よりもスムーズに塗れるようになった。
出来上がった顔は昨日とちょっと違って、ナチュラルな感じだった。けどこっちもこっちでいい感じ。メイクって大変だけど、いいな。
最終調整、お手伝いさんとの対面、気合い入れ…。
本番に向かって、一つ一つが進んでいく。
100日前に書いた、自分への手紙を読んだり。
100人ひとりひとりの笑顔が収められたビデオを観たり。
みんなと肩を組み合って、お互いを讃えあったり。
ああ、ここまで来れたんだ。100日前には想像できなかった景色だ。
そして、意外な人の号泣もあった。
ほとんど泣くことのない僕も、この時ばかりはもらい泣きしてしまった。
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13:00、ついに最初の公演を迎えた。
国境警備隊による挨拶が終わり、いよいよ開始。
音楽が鳴り響き、幕が上がる。
舞台に入場。客席は一杯だった。
色とりどりの照明、会場を満たす音楽、もうここはミュージカルの世界。僕は90分間だけ、この世界の住人になるのだ。
そう思うと、もはや上手くいくかどうかなんて気にならなくなっていた。
あの時初めて、僕はひとりの「演者」になれた。
自由。自由。とにかく自由!この気持ちよさは、今まで味わったことのないものだった。
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公演が終わり、観に来てくれた知人と対面。
沢山の人がいたから会えるか不安だったけど、全員と会うことができてよかった。
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次の公演まで、1時間ほど休憩時間になった。最後の休憩だ。
僕は休むのが苦手である。いろいろ考えてしまう癖があり、全く心が休まらないのだ。
どのように過ごすか思案してたどり着いた結論は、最初の頃のアクティビティで書いた、100日後の自分への手紙に対する答えを書くことだった。
100日前の僕へ
お手紙ありがとう。
あなたは今、とても不安でしょうか?僕のことだから、「これからやっていけるかな…」と不安で一杯だったのではと思います。
100日間で、仲良くなれたメンバーもいれば、あまり話せなかったメンバーもいます。お互いのことを理解し合えたかどうかもわかりません。
だけど、この100日間で、僕はとても不思議な体験をしました。
最初は馴染めなかったハイテンションな空気感に、いつの間にか馴染んでいます。もっとお互いに深くわかり合いたかったけれども、みんなと繋がれているような感覚になれている今がとても幸せです。
お互いに感情をぶつけ合い、励まし合い、触れ合った日々は、僕にかけがえのない宝物をくれました。
今、僕はこれから千秋楽です。正直もっと沢山の人を呼びたかったし呼んだけど来られなかった人もいたけど、親や友達が来てくれて100日間の結晶を共有できて本当によかった!
「ミュージカルに参加する」って決めた5ヶ月前の自分、本当にありがとう!
書き終わると、心の中が洗われたような気がした。少しだけ眠りについた。
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最後の公演。
もう二度とないかもしれない、この舞台。
100人の仲間と舞台を作れる喜びを分かち合いながら、公演に臨んだ。
スピリットが鼓動を打ち、魂が吹き込まれる。
大陸文化紹介は楽しみ尽くした。
何回やっても上手くいかなかった衣装着替えの手伝いも成功。背中を叩いて舞台へ送り出す。一緒に着替えを手伝ったキャストと、成功を喜びあった。
ソロの子の歌声が隅々まで染み渡った、コモンビート1。
前半の演技、後半のダンスとも最高に伸び伸びやれた、言葉をこえて。
ひな壇の上からみんなの様子を観察していた、みんなで大騒ぎ。
舞台裏から一緒に歌っていて泣きそうになった、コモンビート2。
戦争の前には、ポール隊で気合い入れ。
「我らの自由を守るのだ」と叫び、とにかく勝つことしか考えなかった戦争。
天に向けて、一つ一つの動きに祈りを込めたRebirth。
名もなき我が祖先よに出ていた僕の子孫は、僕のことを「自分の文化を守るために戦争に積極的に加担したことを後悔して、戦争が終わった後、戦争のことを後世に伝えるための記録に一生を捧げた」と聞いている。
練習で何度も「遅い」と注意された、リズム遊びからKeep the Beatへの移動も成功!
全ての思いを込めて歌いきった、願いをのせて、コモンビート3。
そして、国境警備隊アンコールを経て、ついにテーマソング。
これまでの思いが、どんどん溢れ出してくる。
気持ちがどんどん高まってくる。
寂しいときも、つらいときもあったけど、この100人と出会えてよかった。
最後、客席へと下りていく。最高の笑顔で歌って踊って、お客さんとタッチ。
最後の一音と共に、パーンと音が鳴り響き、四色のテープが宙に舞った。
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終わった後泣くかと思ってたけど、片付けやらなんやらで結構忙しかったのでそんな余裕などなく。打ち上げの席でも、疲れが勝っていたので、エモくなる前に寝てしまった。
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本番が終わって2週間になる。
本番の余韻から覚めた僕は、またいつもの僕へと戻った。だけど、あの濃かった100日間を終えたからには、きっと始める前とは違った自分になれているはずだ。
最初思い描いていたような結果にはならなかったし、もうちょっとコミュニケーションとか頑張ればよかったなという後悔はある。もっと喋りたかった…。
だけど、この100日間は、思いがけない宝物を僕に沢山くれた。願わくば、またいつかやりたい。
実は、最後の休憩時間中、自分への手紙だけでなく思いつきで詩も書いていた。生まれて初めての詩作だ。
10話ほど連載してきた「もしリア」の最後を、下手くそながらもこの詩で締めくくりたい。
私が自分の意志で選んだ道が
たとえ憧れの場所に通じていなくとも
その道に咲いている花が
私の心を癒やしてくれる
その花がまた次の花を咲かせることで
また癒やされる人がいる
私が好きになった人が
たとえ私に見向きもしなくとも
その人のかけがえのなさが
私の心を勇気づける
その人がこの先も生きてゆくことで
また勇気づけられる人がいる
あなたが積み重ねてきたものが
たとえ突然崩れ去ったとしても
あなたが積み重ねてきたということが
あなたの宝物へと変わる
今はそのことを信じられなくとも
わかる日がきっと来る