もしぼっちが100人のリア充の中に入ったら ~第9話「ひとりひとりが歴史」~

ついに、ついに本番まであと2日となった。

台風が来て公演がなくならないか、来てくださる方々が無事でいられるか不安すぎて、今はもう祈るしかない。
キャスト内の雰囲気は「最後まで集客も開催も諦めない!」って感じだけど、僕はどうしてもそうはなれない。ひとりで不安に浸るしかない。

 

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先々週の土日は、最後の合宿だった。本番と同じ床になるようにリノリウムが敷かれた中での練習。いよいよ本番が近づいたことを感じた。

 

立ち位置の確認ではメモを取らないと絶対に忘れると思ったので、とにかくメモ。頭と体をフル回転して、立ち位置を覚えてゆく。

 

夜は、キャンドルを囲んで語り合い。これまで多くの人と仲良くなってきたけど、まだ全然話したことのない人も結構いることに気づく。最初は仲良くなれる気がしなかったけど仲良くなった人もいる。3ヶ月以上同じ時を過ごしてきて、みんなのことがわかってきた安心感が奥底に流れていた。

 

日曜日の午前中は、衣装での通し練習。合宿の2日前に衣装が完成したため、完成してからは初の通しだった。

パフォーマンスは正直、これまでで一番良かった。舞台にしっかり集中できていたし、大きなミスもなく、90分間を終えられた。あとはダンスの振りをもっと綺麗にすることと、自由に動く部分の自由度を高めていくことだけだ。

 

 

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先週の土日は、ついに最後の練習だった。研究のこともあったので一度は休むかどうか迷ったけど、もしかしたらもう二度と出られないかもと思い、両日とも全参加。

この時の通しでは幾つかミスをしてしまい大いに凹んだけど、これが本番じゃなくてよかったと思った。本番までに修正できれば大丈夫なのだから。

 

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さて、合宿2日目の午後に、パフォーマーの方が来られた。世界チャンピオンにもなったことのある方のパフォーマンスを生で観て、言葉では言い尽くせないほどに興奮した。

だけど、もっと印象に残ったのは、自分自身の生い立ちの話だった。自分が生きてきた過去の話は、僕にとてつもない力をくれた気がする。

 

僕は歴史を専門にしているけど、歴史というのは決して教科書に書かれている歴史だけが全てではないと思うし、ましてや趣味として消費されるような歴史が全てでもないと思う。

むしろ、人はみな自分に固有の歴史を持っており、この歴史こそが最も尊いと思っている。

 

確かに彼のパフォーマンスはすごかった。だけど、自分を「すごい人」と比べることはない。

なぜなら、人にはひとりひとり歴史があって、それ自体が替えのきかないものだから。

だから、この舞台も、自分の歴史の1ページとして描けばいい。そう思った。

 

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ひとりひとりの歴史が重なり合う舞台。この舞台が、ひとりでも多くの人の心を動かすきっかけになることを祈っている。