もしぼっちが100人のリア充の中に入ったら ~最終話「導かれるままに、僕は舞台に上がっていた」前編~
ミュージカルの本番 (12日と13日) から、早くも10日が経った。
ひとつのミュージカルを作るために全てをかけたあの100日間の日々に、僕は何と名前をつけたらいいだろう。100日間は新鮮で、しんどいことも沢山あって、でも楽しすぎて、まるで夢を見ていたかのようだ。
100日間を総括したいのだが、まだ頭の中がごちゃごちゃしてて纏まりそうにない。記憶がババロアのようにグニャグニャして、なかなか掴み取れない。
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本番直前、台風が来るか来ないかという微妙な状況だった。関西直撃は免れそうだったけど、12日に一番近づく予報に。
12日の公演が一番観に来てくれる友人が多かったので、中止にならないかどうか、気をもみながら直前の数日間を過ごした。
12日の朝は、やっぱり強い雨だった。
まだ本番を迎える準備が足りてない気がする。
エンジンが十分にかからないまま、会場に向かった。
他のメンバーも、公演ができるかどうか、ソワソワしているようだった。
最初の全体連絡。公演はできるのか、発表を緊張しながら待つ。
いよいよ発表だ。空気が張り詰める。スタッフの口が開く。
「話し合った結果、今日の公演を中止にすることに決めました。」
震える声から、無念さがこれでもかと伝わってくる。
危険だし仕方ないよなとは思ったけど、楽しみにしてくれていた友人に舞台を見せられないことが、残念でしょうがなかった。
だけど、公演が中止になったと知った瞬間、少しホッとした自分もいた。
心の準備がまだ十分にできておらず、浮足立っていた。この状態で本番を迎えても、十分なパフォーマンスを披露できる自信がなかった。
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台風が近づいてて危ないということもあり、公演以外の日程は予定通りに消化することになった。
本番は慌ただしい。ウォーミングアップ、アクティビティ、化粧、マイクチェック…やることがいっぱいだ。
とりわけ苦戦したのが化粧。まともに化粧をしたことなどないので、要領が全くわからない。
ドーランという特殊なファンデーションを一生懸命に顔に塗り込むのだが、何回やっても不合格を食らう。目許とか耳の後ろが不十分とのことだった。
4度目くらいの審査?でようやく合格が貰え、メイクをしてもらうことに。
アイラインとノーズシャドウをつけてもらった。女子はこれを毎朝自力でしているのかと思うと、敬服せざるを得ない。
出来上がった姿を鏡で見て、「なんだこの美男子は…」となった。
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公演自体はなくなったけど、遠方から駆けつけてきてくれたお手伝いさんたちのために、ゲネプロを披露することになった。
初めての会場での通し。始まる前は緊張した。
でも、色鮮やかな照明が当たった瞬間、もうここはミュージカルの世界だった。
そこでは僕はもはや僕ではなく、ひとりの登場人物であり、ひとりの演者としてそこに立っていた。
上手くいかなかったこともあったけど、舞台の世界に入り込めたことで、より一層自由な気持ちでやり切れたように思う。
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全ての日程が終わり、スマホを開く。「明日は別の用事があって……」「公演の成功を祈っています」。やっぱりいきなり振替は無理か。本当に残念だった。
でも中には「明日に振り替えました」というメッセージも。わざわざ予定変更してまで来てくれた友達もいた。本当に感謝しかなかった。
彼ら彼女らのためにやり切る。そんな気持ちを固め、ホールを後にした。