もしぼっちが100人のリア充の中に入ったら~第1話「話しかけなきゃ友達はできない」~

僕は今、100人でミュージカルを作るプロジェクトに参加している。

一昨年に出演した友人経由で知り、かねてより演じることに興味があったこともあって、今年参加を決めたのだった。

先週の土日、そのプロジェクトの初練習に参加してきた。

 

----------

 

体験会*1で知り合った人もいたが、多くの人は初対面。初対面特有の緊張と探り合いの雰囲気の中、練習は始まった。

最初はスタッフの自己紹介だったのだが…。

 

 

 

「皆さん、こおおんにいいいちわああああ!!!」

 

 

 

ハイテンションに長らく触れていなかった僕は、危うく心が折れてしまいそうになった。練習場所から退場しそうになるも何とか踏みとどまる。参加者たちの中には、スタッフと共に、ハイテンションの共犯関係を結ぶ人もいた。

「とんでもないところへ来てしまった」僕はそう思った。

 

次に行われたレクリエーションでは、2択の質問をしてどちらかに移動するものがあった。何問かの質問に答えながら、ゲームは進む。

そして最後の質問は、「みんなでワイワイするのが好きか、一人で過ごすのが好きか」という質問だった。

そもそも僕は集団行動が苦手で根っからの単独行動人間。僕は迷うことなく「一人」に移動。「まさか…まさかね?」と思っていたが…。

案の定、一人を選んだのは圧倒的少数であった。確か20人いたかいなかったかくらいだと思う。

「あ、俺はこれから100日間、そういう人たちの中で活動するんだな」
薄々気付いてはいたが、僕はこの時にはっきりと自分の運命を悟ったのであった。

 

しかしここで、僕の中にふと疑問が浮かんだ。

もしぼっち体質の自分がリア充の集団の中に入ったら、一体何が起こるのか?

このプロジェクトでは「個性」を大切にしているみたいだ。
だけど、僕と彼ら彼女らとでは、持っている世界観が全然違うように思えた。そんなお互いが、理解しあえる可能性はないのか?

そう思った僕は、これから100日の間で起こったことについてできるだけ克明に記録し、このプロジェクトを社会実験の場にしようと決めたのであった。

 

 ----------

 

参加している人たちの多くも、見るからにキラキラしていた(ように見えた)。様々なコンプレックスや葛藤を抱えた結果こじらせまくった過去を持つ自分とは、何もかもが別世界のように思えた。

僕はそもそも多人数で会話するのも苦手だ。話の流れが速すぎてついていけないことが多々あるし、世の多くの人が共有している話題についてもほとんど話すことができない。しかし会話に入らなければ仲良くなるチャンスを失う。僕はどうしたらいい?

少し考えた結果、ここで無理に人に合わせてもしょうがないという結論に達した。

自分のあり方を無理に大多数と合わせようとすることは、「ありのままの自分」を知ってもらう可能性を狭めてしまうと思った。むしろ、自分が自分らしくあろうとすることにこそ、相互理解への道はあるのではないか。そう思った僕は、自分のペースで過ごすことにした。

 

さて、その結果はどうなったかというと…

 

1日目の夕食、周りが少しずつ輪を作る中、僕は話し相手という話し相手がおらず、一人で部屋に戻り風呂に入ることになった。
自分のペースの関わりとは、1日経っても話し相手ひとりできず取り残されるということなのであると知った。

話しかけなきゃ誰とも関われない。こんな至極当然のことに、合宿の半ば頃になってようやく気付いたのであった。

 

 ----------

 

風呂に入っても、みんながワイワイしている中、僕は誰とも会話することがなかった。

しかしみんなが出た後、偶然にも他に一人で入っている人を見つけた。
これは話しかけるしかない!そもそも僕は集団でいるのは苦手だが、一対一で話すのは好きだ。

その人は都合で遅れて参加していた。次の日に歌・セリフ・ダンスのオーディションがあるのだが、課題ダンスの振り付けが覚えられないとのことだった。

幸い、人より覚えるのが遅かったものの僕は振り付けを覚えていた。風呂から出た後、一緒に練習する約束をした。こうして僕は、初めてメンバーとしっかり仲良くなることができたのであった。

 

----------

 

夜、少し暇だったので『障害と文学』を読んでいた。社会的マイノリティが自分の「言葉」を獲得することで、社会を動かすきっかけを作っていった過去について研究された本である。

読んでいたら、興味を持って話しかけてきてくれた人がいた。自分の問題関心を話すと、「もっとこのことについて話してみたい」と言っていた。お互いを理解しあうとっかかりが生まれる可能性を感じた。

 

----------

 

オーディションは、数人のグループ毎に行われた。オーディションに向けてグループ単位で行動する中で、話す機会が自然と増え、同じチームの人と仲良くなることができた。

かつて合唱をやっていたので、歌だけは後悔のないようにやりきろうと思った。結果として、自分の今持っているものは最大限出せたと思う。ただ、残念ながらもともとの素材の差は埋められなかったのか、選抜されることはなかった。

 

----------

 

2日間を終えて、最初のときと比べてだいぶ硬さがなくなった。
メンバーと少しずつ打ち解け合うことができたし、歌やダンス等で身体を使うことによって、気持ちがほぐれた。これからの100日間に起こる出来事の何もかもを、楽しんでいけたらいいなと思う。

 

----------

 

この100日間で目指したいことを、漢字1文字で名札の裏に書くワークがあった。

僕は、「」と名札の裏に書いた。

みんなのことを理解すること。自分のことを理解してもらうこと。自分の心を縛る鎖から、ありのままの自分を解放すること。そういった意味を込めている。

 

 

次の練習はもう明日だ。さあ、早く寝て第2話を執筆する準備を整えよう。

大冒険はまだ始まったばかり。

*1:ミュージカルに参加するためには、1回以上ミュージカルの体験会に参加する必要がある。